保坂区長の推し進める「空襲被害者等へのお見舞金の支給」は問題あり。
世田谷区議会議員、桃野芳文です。
昨日の区議会福祉保健常任委員会で「民間空襲被害者等支援の検討状況について」との報告がありました。
太平洋戦争時に、空襲や艦砲射撃等の戦災で負傷した民間人にお見舞金として「一人3万円」を支払うという内容で、6月議会で保坂展人区長が表明した施策の、実現に向けた「案」と言うべきもの。
今朝の新聞等でも大きく報道されており、保坂区長もSNSで数度にわたり記事を宣伝しています。
世田谷区、空襲被害者に3万円支給検討 戦後補償の救済立法後押しへ(毎日新聞) https://t.co/zDpjeQ2pbA
太平洋戦争中の空襲などで被害に遭った民間人への支援を検討している東京都世田谷区は2日、1人当たり3万円の見舞金を支給する方向で調整していることを明らかにした— 保坂展人 (@hosakanobuto) September 2, 2025
世田谷区の案について、桃野の主な視点を以下に述べておきます。
1)支給の目的について
区が示しているのは補償ではなくあくまでお見舞金。一人につき3万円(1回のみ)と言うもの。これは空襲加害者は誰か。また戦災を引き起こした当事者は誰か。と言う議論から逃げた結果ではないでしょうか。先ずは軍事施設への攻撃ではなく、民間人を無差別に攻撃した米国を非難すべきで、まさに米国が加害者。そして我が国の中で戦災の責任を問うとすればそれは世田谷区ではなく、国が問われるべきものではないでしょうか。今回、お見舞金を支出するのは今を生きる世田谷区民。そこに整合性があるのか考えなければなりません。
2)支給対象者
区は対象者を以下としています。
昭和16年12月8日から昭和20年9月7日における空襲、艦砲射撃等の戦時災害によって負傷又は罹患したことに起因する障害を現に有する者
・身体障害者福祉法施行規則(昭和25年厚生省令第15号)別表第5号身体障害者障害程度等級表7級以上の障害
・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律施行令(昭和25年政令第155号)第6条第3項障害等級3級以上の障害
・区長が上記に準ずると認める障害
例えば身体障がいについて見ると「身体障害者障害程度等級表7級」は以下内容で、これ以上の重い障がいを負った方が対象というのが区の案です。
1 一上肢の機能の軽度の障害
2 一上肢の肩関節, 肘関節又は手関節のうち, いずれか一関節の機能の軽度の障害
3 一上肢の手指の機能の軽度の障害
4 ひとさし指を含めて一上肢の二指の機能の著しい障害
5 一上肢のなか指, くすり指及び小指を欠くもの
6 一上肢のなか指, くすり指及び小指の機能を全廃したもの
1 両下肢のすべての指の機能の著しい障害
2 一下肢の機能の軽度の障害
3 一下肢の股関節, 膝関節又は足関節のうち, いずれか一関節の機能の軽度の障害
4 一下肢のすべての指を欠くもの
5 一下肢のすべての指の機能を全廃したもの
6 一下肢が健側に比して3センチメートル以上又は健側の長さの20分の1以上短いもの
つまり区の案を見ると「焼夷弾で火傷を負った」方々は対象外。一方で前述のように「・区長が上記に準ずると認める障害」の一文が入っており、どこまでを支給対象者とするかは区長の考え次第という面もあります。区担当所管の幹部に「”準ずる”の範囲をどのように考えているのか」と聞いてみたのですが、これから検討するというような答えで、依然どのような方々が対象者なのかは不明瞭でした。
3)支給要件、内容
区の案は、区内在住者(令和8 年1 月1 日時点において住民基本台帳に引き続き1年以上記録) であれば対象としており、どこで空襲等に遭ったかは問いません。仮に江東区で空襲に遭い、今は世田谷区に住んでいる方は対象になりますが、世田谷区で空襲に遭い、現在区外に住んでいる方は対象になりません。
ちなみに「東京23区×格差と階級」(橋本健二著、中公新書ラクレ)から引用すると、東京23区の戦災による死亡率で最も高いのはダントツ江東区で14.30%、最も低いのが世田谷区の0.03%、と世田谷区は23区の中では戦災被害が極めて小さかった区域と推定されます。
江東区や墨田区など東京大空襲で大きな被害を受けた地域の自治体ではなく、世田谷区が「お見舞金3万円」に優先度を上げて取り組むのは妥当でしょうか。
そして、区の担当所管の課長によれば、「世田谷区における空襲での死者は215名」との資料があるとのことでした。区として見舞金を支払うと言うなら、亡くなられた方らを対象外とするのも施策の整合性を欠くのではないでしょうか。
4)経緯等
区は、浜松市や名古屋市の事例を参考にしたと言っていますが、両市は苛烈な空襲を受けた地域として知られています。そして浜松市は一人年額2万5千円の支給、名古屋市は一人年額10万円の支給です。世田谷区とは全く事情が異なります。
そして経緯といえば、保坂区長はこの施策について「国会での、民間空襲被害者等に関する法案成立を後押しするため」とも言っていますが、それなら、世田谷区民のお金を使ってお見舞金を支給することを考える前に、自らは政府や国会議員に陳情に行ったのか。東京23区の区長会で「23区一帯でやりましょう」と提案をしたのか。そうした仕事をすっ飛ばして、いきなり「世田谷区のお金で支払います」と言うのは筋違いではないでしょうか。
保坂区長の推し進める「空襲被害者等へのお見舞金の支給」は様々な点で問題があると、桃野は考えています。
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